絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません
やることがないので代わりにテレビをつけてみると、どのチャンネルでも朝の情報番組が流れている。全国の天気、芸能ニュース、旬の食材を使った料理コーナー、クリスマス商品の売れ筋特集、脳トレクイズコーナー。それをぼんやりと眺めていると、ふと番組の合間にスポンサー企業のコマーシャル映像が流れ始めた。
「あ……」
思わず小さな声が漏れる。番組が中断してから二番目に流れてきたのは、最先端技術と世界中のネットワークを駆使して安全快適な建築を実現していると謳う『桜城建設』のテレビコマーシャルだった。
四季を感じさせる色彩豊かな背景と穏やかな音楽にのせて桜城建設の素晴らしさを語るのは、芸能関係に疎い絢子でも知っている、大物俳優の縞沢雪浩。長年CMキャラクターを務める彼が語る桜城建設の特徴は、確かに絢子もよく知っているものだけれど。
「私……ひとりになっちゃった」
コマーシャルの最後に流れる『桜城建設』の文字を見て、しゅんと心が萎れる心地を味わう。昨日までは絢子も、この桜城建設グループの社長令嬢だったのだ。
けれど今はもう、あそこに自分の居場所はない。戸籍上はまだ桜城のままだと思うが、いつ離籍させられるかもわからない。玲良に助けてもらったとはいえ、絢子の未来は先が見えない真っ暗な状態だ。
「お母さま……どうして、お父さまを裏切るようなことをしてしまったの……?」
絢子の小さな問いかけには、誰も答えを返してくれない。