絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません
5. 迫られて、ずきり
「あき、ら……さん」
「ん?」
絢子の右隣に座った玲良が、左腕で絢子の頭を自らの胸元へ抱き寄せ、優しく髪を撫でてくれる。
先ほどからこうしてずっと同じ動きを繰り返す玲良に抗議の声を上げてみる。しかし玲良は小さな疑問の声を発するだけで、手と指の動きは止めてくれない。太腿の上に乗せた本のページを右手だけで器用に捲る動きも、活字を追う視線も、そのままだ。
もしかしたら無意識なのかもしれない。だが絢子としては愛玩動物を可愛がるような手つきが恥ずかしくて――でも本音では少しだけ嬉しくて、どうしようもなく照れてしまう。そわそわと落ち着かない。
「あの……くすぐったいです……」
「そうか、我慢しろ。触り心地がよすぎる絢子が悪い」
「そんな……」
どうにかこの状況から逃れようと再抗議するが、また一蹴されてしまう。あまつさえ絢子が悪いと言われてしまっては、これ以上はなにも言えない。現在の絢子は玲良に衣食住を保証してもらっている身なので、急に拒否して逃亡するのも躊躇われる。
「俺と結婚する気になったか?」
「えっ? あ、いえ……えっと」
「別に急かしてるわけじゃないからな。ゆっくり考えてくれ。ただその考える時間も、必ず俺の傍で」