絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません

 だが今の説明から察するに、玲良と獅子堂家にはすげなく断られたようだ。当たり前である。なぜなら夜風に吹かれて凍えていた絢子を助けてくれたのは、他でもない獅子堂玲良本人なのだから。

『獅子堂とのパイプになるならお前でも使い道はある! わかったら、さっさと戻ってこい!』

(なんて勝手なことを……!)

 そんなことは露ほども知らず、ただ獅子堂財閥との繋がりのみを求める匠一に愕然とする。元々高飛車で高慢な人物であることは知っていたが、絢子の頬を打って自分の娘ではないと暴言を吐いた張本人が、私利私欲のために絢子を連れ戻して、自分の娘だと偽ろうとするとは。他人だと宣言したきりこの二週間連絡もくれなかったのに、突然電話をしてきた理由が、利用するためだとは。

 一瞬でも『血の繋がりがなくても絢子は俺の娘だ』と言って抱きしめてくれるかもしれない、と期待した自分が腹立たしい。悲しい――勝手に涙が溢れてくる。そんなはずはないと、知っていたのに。

『ここまで育ててやった俺に、恩を感じないのか! お前に少しでも人情があるなら、一刻も早く桜城に戻っ……』
「うるさいな」

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