絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません
ぽろぽろと涙を流したまま反論の言葉を発せずにいると、絢子の手からスマートフォンを取り上げた玲良が強制的に通話を終了させ、さらに電源も切ってしまった。沈黙した電子機器をソファの上に放り投げると、絢子の身体をぎゅっと強く抱きしめて背中をとんとん撫でてくれる。
「泣くな、絢子」
こんな時ばかり玲良を頼ることを申し訳ないと思いつつ、誰かに支えられないと立っていられない気がして――結局は玲良に縋ってしまう。淑女として慎ましくたおやかであるべきだと、ずっと教えられてきたのに。
「ごめ……っなさ……」
「ああ、違うぞ。あんな奴のために泣くな、と言ったんだ。泣くことがだめだとは言ってない」
「玲良さ……ん」
「泣くなら、俺のためだけにしろ」
優しい命令。甘やかな強制。
それでも嫌な気持ちは一つも湧き起こらない。
抱きしめられて触れ合った場所から、苦しい気持ちがじわりと溢れてほどけていく。悲しくて辛い感情が排出されていく。
このままではだめだと思うのに。玲良に甘えてばかりはいられないと理解しているのに。
大好きな彼の手が離れてしまったら――絢子はもう、自分の足で立つこともできない気がしていた。