絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません

6. 脅かされて、ぞわり


「いいお天気~……」

 グラン・ヴィリオ・エンパイアホテル東京の中庭は自然の樹木で造られた癒しの空間だ。建物自体が外観も内装も重厚で趣のある雰囲気だが、緑の色彩が溢れる中庭はまるで絵本の中の不思議の国に迷い込んだよう。

(でも風は冷たいわ……もうすぐ十二月だもんね)

 穏やかな日差しを浴びながら中庭をひとりで散歩していた絢子は、ひゅう、と吹いた冷たい風に季節の移ろいを感じて、そっと二の腕を抱きしめた。

 あれ以降、匠一からの連絡はない。というより、日に二~三度電源を入れてメッセージや着信履歴を確認するのみで、基本的にスマートフォンの電源は落としたままにしているのだ。

 玲良は絢子に新しいスマートフォンを用意する、と言ってくれるが、その申し出は首を横に振って断り続けている。気持ちはありがたいが、これ以上玲良に甘えても絢子には返すあてがないのだ。

 そんなわけでこれまで以上にスマートフォンに触らなくなった絢子は、ホテルの中庭や周辺の商業施設や公園を散歩することが日課となった。一度、散歩の途中で見つけた『ご自由にお持ちください』と書かれた求人情報冊子をホテルに持ち帰ったこともあったが、あっという間に玲良に見つかり『絢子には必要ない』と不機嫌に怒られた。

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