絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません

 だがまったく知らなかった。一切気づいていなかった。まさか探偵を使って絢子の所在を探っていたなんて。目撃情報の真相を、直接確かめられていたなんて。

(でも確かにここを散歩してるし、ホテルの外にも出てる……それにラウンジやレストランにも……)

 このホテルに滞在するようになってから、中庭の散歩が絢子の日課になっている。必要な買い物や玲良におつかいを頼まれたときは、ホテルの外にも出かけている。授業やゼミ活動はほぼ終わっているが、図書室で本を借りるために何度か大学にも足を運んだ。

 また食事は基本的に部屋で取っているが、時折カフェラウンジを利用したり、玲良と一緒にレストランやバーを利用することもある。後者については個室や特別席を利用するのでいくら探偵でもそう簡単に潜入できないはずだが、他の場所に関しては、利用料さえ払えば宿泊客以外でも入れる場所ばかり。きっとその姿を確認されていたのだろう。

「早く来い! 家に帰るぞ!」
「やっ、いやです……!」

 匠一が中庭に現れた状況を分析していると、しびれを切らしたように絢子に近づいてきた匠一から急に手首を掴まれた。そのままぐいっと力を込められたので、思わず大きな声を発する。

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