絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません
「あ、玲良様の聞き間違いでは……?」
なおも言い逃れを試みる匠一だが、玲良の冷たい表情と声はそれを許さない。
「そうですか。ですが桜城社長が先日強引に退職させた使用人数名からも『旦那様が絢子お嬢様に暴力を振るい、自分の娘ではないと叫んで家から追い出した』との証言がありましたが?」
「!」
玲良の暴露に――特に前半の内容に驚いたのは、匠一よりもむしろ絢子のほうだった。
(ひどい……みんなを辞めさせてしまったなんて……!)
桜城邸は大きな屋敷だ。ゆえにそれなりの人数の使用人が在籍していたが、みな心優しく親切で仕事も丁寧な、素晴らしい人々ばかりだった。中には絢子が幼い頃から勤めて親しく接してくれている者もいたのに、急に辞めさせてしまったなんて。
おそらく夜風の中に絢子を放り出した燈子や、それを知ってもあえて放置した匠一に反発して、意見を言った者がいたのだろう。心優しい人たちばかりだから、主の反感を買ってでも絢子を助けようとしてくれたことは想像に容易い。
きっと年配の小夜も、あの場で意見して自分が罰を受ければ、巡り巡って絢子が傷つくことになると考えた。だからこそあの場では何も言わず、絢子の救出は玲良に託して、後から匠一を諫めたのだろう。
そんな優しさと配慮に溢れた使用人たちをあっさり辞めさせてしまうなんて。