絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません
自分のせいで無関係の使用人まで苦しめてしまった……と心が折れそうになった絢子だったが、その気持ちを救ってくれたのもやはり玲良だった。
「ちなみにですが、全員すでに獅子堂か是川の屋敷に勤めて頂いてますので」
「え……!?」
「もし彼らになにかをすれば、すべて『獅子堂に対する桜城建設グループの敵意』とみなします」
「あ、玲良さん……? 皆さま、獅子堂家や是川家にいらっしゃるのですか……?」
「ああ、そうだ。黙ってて悪かった」
衝撃的な宣言に驚くあまり、唖然と玲良の顔をまじまじと見つめてしまう。是川というのは獅子堂家に嫁いだ玲良の母親の生家で、航空会社と傘下の旅行会社を経営する是川一族のことだ。獅子堂財閥よりは規模が小さいが、桜城家を辞めさせられた使用人たちがその由緒正しい是川家や獅子堂家で働けているなんて。
玲良はきっと、匠一が複数の使用人を辞めさせてしまったことを知れば、絢子が気に病むと考えたのだろう。絢子の心理的負担を軽減するためにぎりぎりまで黙っていてくれたこと、またこれまで世話になってきた使用人たちに最大限の配慮をしてくれたことに胸を打たれる。本当に、彼には頭があがらない。
感動で胸が熱くなる絢子だが、それと対照的に匠一の表情からはみるみる血の気が引いていく。