絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません
「絢子と縞沢くんが……親子……?」
「え……」
結果報告書を確認した匠一がぽつりと呟いたので、絢子も再び固まってしまう。
家を追い出された経緯や二週間前の電話連絡の内容を思えば、絢子と匠一の間にはもはや親子の絆など存在しないと思うほうが自然だった。絢子に対する匠一の態度から娘を想う気持ちは微塵も感じられず、むしろ今さら本当の親子だと言われたほうが残酷だと思うほど。
その事実に再び気を落とす前に、絢子の胸の中に別の答えが落ちてくる。それは先ほど雪浩自身が発した言葉とも一致するが、絢子にとっては急展開すぎて仰天するしかない内容。
「じゃあ縞沢くんが、香純の〝想い人〟なのか……?」
「ど、どういうことですか?」
報告書から視線を外した匠一が、玲良の隣に立った雪浩を困ったような表情で見つめる。だが絢子には意味がわからない。想い人、とはどういうことだろうか。流行り病で病死した母の香純は、匠一と恋愛結婚をしたのではなかったのか。
「絢子ちゃん……でいいんだよね?」
「は、はい……」
「えっと、僕、役者をやってるんだけどね」
「ぞ、存じ上げております……!」
まさか話はそこから始まるのか。
だが知らない人などいないだろう。
なにせ相手はあの縞沢雪浩だ。
硬派な渋い役から明るくお茶目な役まで演じ分けられる実力派俳優で、芸能界に疎い絢子でも知っているほどの有名人。