絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません
「公表準備と同時期に、数か月間フランスに滞在して映画の撮影をすることになった。それが終わって戻ってきたら、籍を入れてメディアにも公表する予定で動いてた。けど帰国してみたら香純ちゃんは行方不明、彼女のお父さんも持病の悪化で亡くなって、『みうら』は閉店――僕は突然、香純ちゃんを失った。世界で一番愛していた女性と、生き別れになったんだ」
絢子が生まれる前の話ならば、少なくとも二十二年以上前の話だ。その頃はスマートフォンはおろか、携帯電話も今ほど普及率が高くない時代である。連絡手段を断たれて離れ離れになってしまうと再会は困難を極め、またどちらかが頑として会わないよう努めていれば、さらに巡り合う確率は下がるだろう。
そうして香純は雪浩の前から、忽然と姿を消してしまったという。
「本当は香純ちゃんに会って、彼女の口から事情と経緯を聞きたかった。だから僕なりに手を尽くしたつもりだったけど、そうこうしているうちに香純ちゃんが桜城建設の社長夫人になったことを人伝てに聞いて……」
雪浩の口振りから察するに、彼は一所懸命に香純を探したのだろう。しかし雪浩の帰国を待てなかった香純は、その後ろめたさからか彼の前にはついぞ現れなかった。