絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません

「香純ちゃんは、僕がいない間に桜城社長に心変わりをしたんだと思った。そんな不誠実なことをする子じゃないし、黙っていなくなるはずがない。――そう信じてたけど、桜城社長との間に子どもが生まれていたから、結局僕にはもう出る幕がないと思った。けどまさかその子が……君が、桜城社長とじゃなく僕との子だったなんて」
「!」

 雪浩が歓喜と後悔を織り交ぜたような、複雑な表情で言い募る。

 絢子は縞沢雪浩の出演する映画やドラマをよく見るわけではないが、この説明や表情、態度が演技じゃないことはわかる。彼の想いをしっかりと感じとることができる。

 それはきっと、遺伝子鑑定の結果以上に――科学的根拠以上に、絢子を見つめる雪浩の表情が温かくて優しいから。彼の全身から、香純を想う気持ちと絢子という存在があることを嬉しい、愛おしいと示す感情が伝わってくるからだ。

「桜城社長は、随分汚い手を使って香純さんを手に入れたようですね」

 この場にいる全員が状況を理解したことを確認した玲良が、絢子の腰を引き寄せて己の胸の中に抱き込む。もう絶対に触れさせない、という強い意思表示に匠一が絶望の色を示したが、その姿を見ても玲良は一切怯まない。まったく容赦しない。

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