絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません

「美しく優しいと評判の看板娘を望んだ桜城社長は、彼女の父親に姑息な手段で借金を背負わせ、精神的にも肉体的にも追い詰めた。そうして元々あった持病が重篤化した際、父親の借金と治療費の援助を理由に、他に想い人がいると知りながら香純さんへ迫ったのでしょう」
「そ、それは……」
「彼女から相談を受けていた友人や近隣の人々が当時のことを覚えていましたよ。二十年以上前の話だったので、事情を知る人を探すのに随分手間取りましたが」
「……玲良さん」

 どうやら玲良は絢子の出生と香純が桜城に嫁いだ事情をこっそり探っていてくれたらしい。

 玲良いわく、香純の父は亡くなる一年ほど前から『みうら』の立ち退きや友人の土地購入の肩代わりと引き換えに香純を差し出すよう、匠一に迫られてきたらしい。

 しかし娘とその想い人である雪浩の幸せを願って、ぎりぎりまで香純に事実が伝わらないようどうにか踏みとどまっていた。だがその切ない努力が持病を急激に悪化させ、結果、運悪く雪浩の長期不在のタイミングで床に臥せることになってしまった。

 一刻を争う父の治療費を理由に迫られた香純は、雪浩の帰国を待たず匠一へ自身を差し出す道を選んでしまった。そのときすでに、雪浩の子をその身に宿していることにも気づかずに。

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