絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません

 玲良の口から真実を聞いた絢子は、言葉を失って呆然とするしかない。

 香純と匠一に婚姻の事実がある以上、絢子と匠一が戸籍上の親子であることは間違いない。だがまさか、血縁関係がないどころか香純やその父――絢子にしてみれば祖父となる人物を苦しめていた張本人が、匠一だったなんて。

 どこにぶつけていいのかわからない苦しい感情が渦を巻く。事実を知った衝撃が強く玲良に支えられて立っているだけで精一杯だったが、絶句する絢子に代わって口を開いたのは、それまで玲良の説明に聞き入っていた雪浩だった。

「桜城社長。僕、来シーズンから桜城建設さんのCMは降りさせて頂きますね」
「なっ!? な……!」

 けろりとした口調で言い放つ雪浩に、匠一が再び声を失う。だが静かな怒りの感情を湛える雪浩は、匠一の驚愕と動揺を意に介さない。

「元々、香純ちゃんが桜城社長の元へ嫁いだと知っていたからこそ受けたお話でした。天国にいる彼女に少しでもいいところを見せたくて……あなたへの嫉妬でオファーを蹴るなんてカッコ悪い姿を見せたくなくて、意地だけで続けてきたんです」
「縞沢さん……」
「でも僕と香純ちゃんの娘に手を上げるような人とは、もう仕事なんてできない。誰がなんと言おうと、今シーズン限りで降板させて頂きます」
「そんな……!」

 桜城建設にとって、十五年以上自社のCMキャラクターを務めてくれていた雪浩の突然の降板は、大きな痛手となるはずだ。

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