絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません
ここで玲良から完全に手を切られれば、桜城建設グループと獅子堂財閥グループの協力関係や業務提携も失われかねない。娘を使って獅子堂と縁を結ぶことがかなわず、雪浩からはCMを降板され、今後ゴシップの格好の餌食になるかもしれないうえに獅子堂と完全に対立することとなれば、桜城は先細りの一途だ。
それなりに大きな企業なのでいきなり消えてなくなることはないと思うが、業界内で浮いた存在になることは避けられない。
それだけはなんとしても回避したいと躍起になる匠一だったが、玲良は至極どうでもよさげな表情だった。
「それで、桜城社長はいつまでここに居座るつもりですか? はっきり申し上げますが、絢子と縞沢さんの再会の邪魔です」
「! も、申し訳ございません……!」
玲良の冷酷な一言で今この場で自分がすべき最善の行動を悟ったのだろう。あの日と同じく強い力で握りつぶした紙切れを玲良に差し出した匠一が、カフェラウンジと中庭を繋ぐガラスの扉から背中を丸めてそそくさと出ていく。
結局、匠一は一度も絢子に振り返ることがなかった。彼が執着していたのは一方的に惚れ込んでいた母・香純と獅子堂との繋がりだけで、絢子自身には興味も関心もなかったのだろう。そう考えるとまた胸が苦しくなる絢子だが、すでにこの場から退散した匠一の心を変えることはできない。
それよりも、今の絢子には大事なことがある。
絢子の目の前には、これまで想像もしていなかった〝真実〟が広がっていた。