絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません
8. 愛されて、誓われて、それから
匠一が出て行ったガラスの扉から、隣に並び立った玲良の横顔へ視線を移動する。
普段通りに仕事をしていても相当忙しいはずなのに、玲良は絢子と慣れないホテル生活を続けながら、絢子の出生の秘密と香純の過去を探ってくれていたらしい。
しかも選別していない生々しい事情や情報を突然突きつけて絢子が衝撃を受けないよう、絢子の記憶を頼らず調査はすべて彼自身が秘密裏に行っていた。自分自身のことなのに手伝いもせず呑気に甘やかされていたとは、なんと情けない。
そう考えてしゅんと俯きかけた絢子の耳に、玲良の穏やかな問いかけが届いた。ただしそれは絢子に向けたものではない。玲良と同じぐらい多忙を極めているだろう中でここにやってきてくれた、絢子の実父・縞沢雪浩に向けたものだ。
「縞沢さん。不躾なお願いで恐縮ですが、絢子さんとの結婚を認めてくださいませんか?」
「えっ……?」
これまでの親切や配慮はどこへやら。ある意味、もう戻れないし変えられない自分の出生についてよりもよほど衝撃的な……絢子の今後の人生や未来を捕まえて逃さないと言わんばかりの宣言に、つい声がひっくり返る。
しかしさり気なく絢子の手をぎゅっと握ってくる力強さは本物だ。――やはり逃げられそうにない。
ドキドキと緊張しながら玲良の横顔を見つめていると、二人の顔を見比べた雪浩がくすくすと笑い出した。