絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません
「僕は全然構わないけど……っていうか、二人は付き合ってるんだね?」
「ずっと婚約者ではあったんですが、恋人としてはまだこまだこれからです。でも早いうちに結婚はしたいですね」
先ほどまでとは打って変わった笑顔と優しい声を向けられ、思わず腰が抜けそうになる。最初の告白や結婚したいとの宣言は、これまで十年間婚約者だった絢子への最後の情けだと思っていた。絢子に義理と操を立て、事実関係を解明するまでは形式だけでも婚約者を続ける、という意味だと思っていたのに。
(嬉しい……)
震える手をぎゅっと握って微笑んでくれる玲良に、どうしようもなく惹かれてしまう。一方的な憧れ、愛のない政略結婚――それすら叶えられずすべてを諦めるはずだったのに、玲良は桜城という後ろ盾を無くした絢子でもいいと言ってくれる。好きだと言ってくれる。
「最近の若い子は婚約が先で、恋愛と結婚は後からなんだね。おじさんにはちょっと難しいよ」
「あ、あの……玲良さんの発想が特殊なだけです」
雪浩が呟いたのは、若干の困惑を含んだ感心の台詞だった。その一言でハッと我に返った絢子は慌てて訂正したが、口ではそう言いつつ玲良の手を握りしめたままだったことがおかしかったのか、雪浩にもくすくすと笑われ、玲良にもにこにこと微笑まれてしまった。なんだか少しだけ恥ずかしい。