絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません
その雪浩の顔をじっと見つめて、思う。
(この人が、私の本当のお父さま……お母さまが、本当に愛した人……)
今は多くを語らない。けれど近い将来、父と娘で思い出を語り合うことができる気がしている。彼が『聞いてほしい』という母の人となりと、自分が与えられるはずだった愛を知れる。
まだ驚きの感情はあるけれど、その楽しみを希望に前を向けたらと思う。
「ありがとう、ございます」
「こちらこそ、ありがとう」
互いに感謝の言葉を伝えてそっと微笑み合う。
――絢子はまだ、生まれ変わったばかりだ。
* * *
「絢子」
名前を呼ばれたのでハッと我に返ると、ソファの隣に腰を下ろしてきた玲良の顔をじっと見つめる。
絢子は何度も大丈夫だと言ったが、玲良は『一気に色んなことが重なって気持ちが落ち着かないだろうから』と譲らず、結局あれ以降の仕事はすべてキャンセルして、ずっと絢子の傍にいてくれた。
玲良が代表取締役社長を務めるレオ・ル不動産は獅子堂財閥グループの中では比較的新しい会社だが、部下が有能ゆえに多少なら不在にしても問題はない、とのことだ。
「驚かせて悪かった。本当はもう少し穏やかな再会をセッティングする予定だったんだが、まさか桜城社長が絢子の居場所を突き止めて急襲してくるとは思わなかった」
「いいえ、大丈夫ですよ」
申し訳なさそうな表情を見せる玲良にそっと笑顔を返す。