絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません
確かに今日は予想外のことが重なったが、嬉しい発見もあった。その証拠であるDNA鑑定の結果報告書をテーブルの上へ戻すと、隣の玲良がまた腰を抱き寄せて自分の肩に絢子の頭を誘導してくれる。こてん、とこめかみをくっつけるように頭の重さを預けると、玲良に、
「よしよし」
と優しく頭を撫でられた。
やはり玲良は、今日も絢子を甘やかすことに余念がない。
「絢子、俺と結婚してくれるか?」
そしてその体勢のまま静かに紡がれた言葉も、これまでと同じ。時に向かい合って真剣な表情で、時に挨拶と間違うほどの軽やかさで、時にうとうと眠りかけている絢子へ暗示をかけるように。
毎日必ず最低二回、多い時はそれ以上愛の台詞を重ねてくることを、これまではただの義務や義理だと思っていた。およそ十年清らかな関係を続けてきたこともあいまって、玲良も獅子堂家から政略結婚を強いられ、その延長として義理で絢子を引き留めてくれているのだと思っていた。
しかし玲良は、桜城の名を失い利用価値がなくなった絢子にも変わらぬ愛を囁く。さらに絢子の本当の父である雪浩にも結婚の許可を希っていた。その声と視線と表情は真剣そのもので、これらが演技だとは到底思えない。もちろん玲良が人を傷つけるような嘘をついたり、愛情だと偽って他者をからかう人だとも思ってないけれど。
「玲良さんの気持ちは嬉しいです。でも私はやはり……獅子堂財閥の御曹司である玲良さんには、相応しくありません」
玲良の気持ちは本物だ。それは絢子も十分理解している。