絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません
けれどそれだけを根拠に彼の手を取ることはできない。真実を知ることで心にのしかかっていた重石は退けられたが、だからといって絢子自身の価値が変わったわけではない。桜城建設グループの社長令嬢ではなくなった絢子は、玲良になんの恩恵も与えられないのだ。
「玲良さんには、もっといい人が――っ……え!?」
その考えを今一度伝えようとした絢子だったが、最後まで言い終わらないうちに視界がくるん、とひっくり返った。玲良が支えてくれたので背中や肩をぶつけることはなかったが、代わりに別の衝撃を受けることになった。
気づけばソファの上に押し倒されていた。さらに玲良が上へのしかかってきて、動きを拘束するように身体の自由を奪われる。
「あ、玲良さん……!?」
「相応しくない? 絢子が?」
間近に迫った玲良の整った顔面は、とんでもない迫力と破壊力だった。男性でありながらこんなにも美しく整った顔立ちをしているなんて、と的外れかつ挙動不審気味に身構えたが、玲良は照れて顔を隠す行動すら許してくれない。
「俺はずっと、絢子だけが好きだ」
「え……えっと……?」
「他の相手はいらない。他人にどう思われようと関係ない。絢子だけに振り向いてほしくて、これまで必死に努力してきた」
「!」
真剣に言い募る玲良の言葉に心が揺れる。彼の想いに、自分『なんか』と思う後ろ向きな気持ちが溶かされていく。
(玲良さんも、同じ……?)