絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません

 玲良の語る言葉には絢子も身に覚えがあった。なぜなら絢子も玲良に相応しくありたいと願い、品行方正を心がけつつ、多くの習い事や稽古事をこなし、たゆまぬ努力を重ねてきた身だ。

 もちろん玲良の努力と絢子の努力は、本質としてはまったく別のものだろう。それに絢子に振り向いてもらうために玲良が努力をする必要はないと思う。けれど考え方そのものは似ている気がする。

 結果として桜城家の令嬢ではなくなった絢子だが、だからと言って絢子という存在が消えるわけでも、これまでの努力が無になるわけでもない。玲良の役に立ちたい、彼に相応しくありたい、少しでも近づきたいと思う気持ちは昔も今も変わっていない。

 恋心を抱くことそのものに『家柄』は関係ない。だから玲良の隣には彼に相応しい人が立つべきで、自分こそがそうありたいと思うなら――他でもない玲良がこの想いを受け入れてくれるなら、絢子は素直になればいいだけだ。

 玲良のために、今後もその努力を続けていけばいいだけなのだ。

「俺は絢子が『結婚する』と頷いてくれるまで、毎日口説き続ける」

 玲良が明確に宣言するので、絢子もようやく思い知る。
 絢子はきっともう、彼の献身的で一途な愛からは逃れられないのだ――と。

「好きだ、絢子。俺と結婚してくれ」
「……はい」

 もう一度愛の言葉を重ねられたので、そっと顎を引いて彼の想いを受け入れることを示す。

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