絶縁されたので婚約解消するはずが、溺甘御曹司さまが逃してくれません
しかし玲良は絢子からいい返事をもらうまで、まだ少し時間がかかると予想していたらしい。自分から求婚した割に絢子の承諾をすぐに理解できなかったようで、動きがぴたりと停止してしまう。
「絢子? ……本当か?」
おそるおそると言った様子で確認されたので、気恥ずかしい気持ちを押し殺しながらこくりと顎を引く。
「私も、ずっと前から玲良さんが好きです」
首の動きだけでは伝わらないかもしれない。そう思って声に出して愛を伝えると、玲良もようやく絢子の気持ちと返答の意味を理解したようだ。一見すると感情の起伏が少ないが、よく見ると喜怒哀楽の変化がわかる美しく整った玲良の顔が、幸福の蜜に浸ったように甘ったるく微笑む。
「まだまだ未熟者ですが、玲良さんを支えられるように頑張……」
「絢子」
「ん……っ」
絢子が決意を表明すると、ただでさえ至近距離にあった玲良の顔がぐっと近づいて――そのまま唇を重ねられた。
それは恥ずかしくも甘やかなキス。
唯一無二の感情を示す、愛と誓いの優しい口づけ。
身体の芯まで熱くなるような、心の奥がぽんわりと温かくなるような、心の底から愛し合う者同士の間で交わされる愛情表現。
「俺を、受け入れてくれるんだろ? ならこのまま……だめか?」
「……だめじゃ、ないです」
玲良の掠れた声が絢子を誘う。けれどもちろん嫌ではない。
だからどうにか頷いた絢子だったが、一時間も経たないうちに自分の判断ミスを思い知る。
溺甘御曹司さまは、今夜も、これから先も、ずっと絢子を逃がしてくれないのだから。
――Fin*