聖騎士さまに、愛のない婚姻を捧げられています!
御者は、その分代金を上乗せできると踏んで快くリリシアの頼みを聞きいれた。不気味にゴロゴロ鳴り出した灰空のもと、馬車は出発した。
森に近づくにつれて風が強くなってきた。木々が不気味に揺れている。遠雷が響き、馬たちが怯え始めた。
(あの子たち、大丈夫かしら……)
「お嬢様、すみませんがここからは馬車では無理ですね。馬たちが怯えてしまって……」
御者が不安そうな表情でこちらに降りてきた。
「では歩いて行くわ……小屋はすぐ近くだから」
「そこまでしなくても、きっとその山小屋で遊んでるだけでしょう。一晩くらい足止めされても別に、大丈夫ですよ」
御者は肩をすくめて見せる。
リリシアは暗い森を見つめる。今にも雨が降りそうな空模様だ。
「でも……私、見てきます。ここで待っていてください」
「だ、だめです。そんなこと! 迷ったらどうなさるんですか」
「二人はお昼過ぎには帰るって院長さんに約束したそうよ。真面目な子達だから、約束は守るはずなの……もしかしたらどちらかが怪我をしているのかもしれないわ」
リリシアの真剣な顔に御者はため息をついた。
「……わかりました。私も行きますから。馬を繋いでおくので少しお待ちを」
リリシアはその間に素早く馬車から降りた。なんだか妙な胸騒ぎがする。肩掛けを羽織り歩き出したその時、風の音に混じって恐ろしい獣の咆哮が響いてきた。続いて地鳴りのような低い唸り声があたりを這う。
「ひっ…… お嬢様!狼ですよ!早く馬車に戻って……」
「だ、だめよ。あの子たちが心配だわ……!」
「そんなもんどうでもいいでしょう。たかが孤児の子ども」
御者の制止を振り切ってリリシアが森へ行こうとしたその時、そばの茂みがガサガサと揺れた。
「助けて……っ、だれか、たすけて!」