聖騎士さまに、愛のない婚姻を捧げられています!
3話 謎の剣士さま
ひとりの少年が茂みから飛び出してきた。頭に枝や葉をひっつけている。
「シノ!」
「り、リリシアお嬢さま!」
泥に塗れた顔で少年はこちらに駆けてくる。その後ろにもう一人くっついていた。二人の顔には恐怖がこびりついていた。
「あ、あの子たちです!よかった、……二人とも」
リリシアは両手を広げて二人を迎えた。だが、少年たちはものすごい形相で首を横に振る。
「は、はやく逃げないと! あいつがくる……っはやく……っ」
「あいつ……?」
「狼なんだろう! お前たち、早く馬車に乗りなさい!」
御者は慌てて馬の繋ぎ紐を解きにかかる。
「ち、ちがう……っ、狼なんかじゃないっ、化け物だ、怪物だよっ!」
「怪物?」
「そうだよ!あんなけむくじゃらの……見たことない……」
少年たちはガクガクと震えている。まともに喋ることが出来なさそうだ。
(雷のせいで、何か恐ろしいものを見たのかしら)
リリシアは彼らの手を取る。
「大丈夫、大丈夫よ、さあ、乗って。帰りましょう」
二人を馬車へとつれて行こうとしたとき、一陣の風が彼女の前を通り過ぎた、風にのって嫌な臭いが流れてくる。鼻をかすめる獣くさい匂いと、鉄の匂い。地を這うような低い声はどんどんと大きくなって、やがて狂気じみた咆哮へと変わる。恐怖が、リリシアを一瞬で捉えた。
(なに、この唸り声。こんなの……聞いたことがないわ)
「うわぁぁ、き、きたっ! お、追いかけてきたっ」
少年たちは木の間を凝視して腰を抜かし、ぺたりとお尻をついてしまう。
やがて、ゴロゴロと鳴る雷とともに「あいつ」が姿を見せた。