聖騎士さまに、愛のない婚姻を捧げられています!

「申し訳ないけれど、伯爵家での貴女の待遇のこと。以前に聞いていたんだ。修道院でね」
「あ……。そうだったのですね……」

 彼女は瞬きをした。ということは、夫は、彼女を妻に迎える時にはすでに知っていたのだ。養女のリリシアが家族に疎まれていたことを。

「……そのことは、他でも有名でしたし、婚約者の下調べをするのは当然だと思いますから、気になさらないでください」

 だが、彼はなおも続ける。

「不遇な方だと、思った。魔物に立ち向かった勇敢な女性がそのような扱いを受けているのが気の毒で、とても不憫に感じた」
「セヴィリス様?」

 それは、どういう意味だろう。なぜ今そのことを?

 セヴィリスは、彼女の肩を抱いたまま自分の方に振り向かせた。

「それもあって、貴女をグリンデルに迎えることを決めたんだ」

 同情。

 セヴィリスはリリシアの不遇を憐れんで妻に迎えたのだ。

 ああ。そうだったのね……。

 彼女はぎゅっと目を閉じた。

 それならわかる。

(すごくすごく、セヴィリス様らしい……)

 修道院のこともそうだ。そもそもデインハルト家が慈愛の精神に満ちている。そんな中で育った彼にはごく自然のことなのかも知れなかった。真面目で、正義感の強いセヴィリス・デインハルトは聖騎士長としてすべきことをしたのだ。

 彼のいう、愛のない婚姻生活というのは間違いではなかった。わかっていたことだが、胸が痛い。

(私はとっくに、この方のことを大好きになってしまったけれど……)


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