聖騎士さまに、愛のない婚姻を捧げられています!
彼の告白はさらに続く。
「それにもう一つ。貴女に求婚した理由がある。ごくごく個人的なことだけれど。……私には弟がいたんだ」
リリシアは驚いて彼を見た。
「え?……弟君が、おられたのですか」
そのような話は使用人たちからも聞いたことがなかった。彼は硬い表情で頷いた。
「……弟は、レイスは数年前に亡くなった。たまたま父と避暑に出かけた際に運悪く魔物と遭遇してしまって、そして命を落とした。父はそれが元で聖騎士長を退いた」
彼は低い声で淡々と話す。それが逆に辛そうに見えてしまう。
「そんなことが……お気の毒に」
リリシアは彼の手を握りしめた。かすかに震えている。あまり、話さないようにしてきたのだろうか。絞り出すような声でセヴィリスは続けた。
「弟の……レイスの命を奪ったのは、ラギドなんだ」
「え……」
雷に打たれたような衝撃がリリシアを襲った。あの、おぞましい魔物が。
声も出せずに、夫を見上げる。彼の緑の瞳はいつのまにか燃えるような赤になっている。まるで、初めて会った時のように。
「だから、貴女を娶ったのは弟の仇を討つためなんだ。 魔印のある貴女をそばに置けば、あいつを誘き寄せることができる……。倒す機会が必ずやってくるからね」
私は貴女を利用しているんだ。
夫の瞳にはどす黒い復讐の炎が揺らめいている。そこにリリシアは映っていない。あまりの衝撃に、かける言葉が見つからない。リリシアはただ、セヴィリスの震える手を握り続けた。
「私は、打算、同情、責務。様々な理由であなたを迎えた。その全てが、利己的な考えだ」
だから貴女の望みを叶えるのは、せめてもの報いでもある。貴女が申し訳なく思う理由なんて一つもないんだ。
『妻として振る舞ってもらうことなど望んでいない。好きなように過ごして欲しい』
初夜にそう言われたことが蘇る。
合わせ絵の外れたかけらがゆっくりと合わさる音が聞こえた気がした。
「でも……でもね」