聖騎士さまに、愛のない婚姻を捧げられています!
「だ、だって、その……私たちは、さっき互いに想いを伝え合っただろう?」
「……は、はい……っそ、そうです」
馬車のなか、セヴィリスの柔らかな唇が触れたことを思い出して、リリシアの頭でぽんっと恥ずかしさがはじけた。
修道院で大切な話し合いをしている時には考えないようにしていたせいで、急にしどろもどろになってしまう。夫も、先ほどまでの凛々しく真面目な態度とは打って変わって忙しなく瞬きを繰り返している。
「だから、その……、あの日にできなかったこと、を……、もう一度、貴女を、私の花嫁として、」
リリシアは目を見開いて、彼を見つめる。
「初夜を、本当の初夜を迎えたいんだ。館に着くまでなんて、とてもじゃないけど待てない」
リリシアの若き夫は美しい瞳を潤ませ、妻を抱き寄せる。彼の胸のなかはあたたかくて、熱い。すっぽりと包まれてしまえばもう、彼の心の臓の音しか聞こえない。
どくんどくんと脈打つ音がリリシアの音と重なり、響きあって二人の身体を駆けめぐる。
足が床についているのに、ふわふわと浮いているような心地に、リリシアは思わず彼にしがみつく。
「わ、わ、わたしも……同じ、です……」
「ほんとうに?私と一緒の寝台は、嫌じゃない?」
彼は心配そうに尋ねる。そう、今までふたりは一度も隣同士で眠ったことなどないのだ。
「ぜ、んぜんっ!そんなこと、ない……」
リリシアは小さな声でそう言ってふるふると首を横に振る。髪に、セヴィリスの手が触れる。気持ちを確かめるようにそっと撫でられ、額に、耳に、頬に、彼の体温が伝わる。
手当のために丁寧に肩に触れるだけだったセヴィリスの指が、リリシアの顎をそっと持ち上げた。
唇が引き寄せられるように近づく。