聖騎士さまに、愛のない婚姻を捧げられています!
「……っ、……あ、ありがとうございます……っ」
幼いころから、あの館では誰も父の話なんて親身に聞いてくれなかった。孤児院出の父を馬鹿にして罵倒する家人の誰一人として、二人を素晴らしいと褒めたりしなかった。
そんなリリシアにとって、セヴィリスが心から彼らを思ってくれるのは何ものにも変えがたい幸せだったのだ。咽び泣くリリシアの背中を、セヴィリスはぽんぽんと優しくたたく。
「また、たくさんお二人の話を聞かせてほしい。私も、レイスのことを聞いてほしいな」
「は、はい……っ」
涙が枯れるまで、リリシアは彼の腕の中に包まれていた。
やがて空が白み始めるころ、リリシアはペンダントのことに触れた。
「父様は私の誕生日に、この石を贈ってくださいました。幼い私には、金色がとてもキラキラして、妖精の宝物みたいに見えたのです。必ず、肌に直接つけるように言われたのをよく覚えていますわ」
彼女は嬉しそうにペンダントを手に取った。金の石は黒く濁りながらも、輝きは衰えていない。
「お父上は、石の由来など何か仰っていたかい?」
彼女は眉を寄せ、思い出そうとする。
「父も、自分の父からもらった、とだけ。あまりに幼い記憶で、詳しいことは父にもわからなかったようです」
リリシアの父は二つか三つのときに孤児院に引き取られたらしい。その話は、彼女もあまり聞いたことがなかった。
彼はリリシアの首にかかるペンダントを手に取り、黒い斑点を再びじっと見つめた。
「これは、私の憶測だけれどもしかしたら貴女に対するラギドの魔印の力が弱いのは、この石が関係しているのかもしれない」
「……え?で、でも、あの、婚礼式の夜までは私は、とても嫌な夢を……それに、肩の疼きもひどくなるばかりで」
彼女は嫁ぐ前の苦しい状態を思い出して俯く。