聖騎士さまに、愛のない婚姻を捧げられています!
「あ、あり、ありがとうございます……助けていただいて」
怯える馬や、吹き荒ぶ風。彼女は今になって震えが止まらなくなってきた。
「……ご婦人があんなことするものではない。獣共にやられてしまうよ」
剣士は優しげな声音になり、リリシアの前に片膝をついた。彼女はかたかたと震える体で、命の恩人に深々と頭を下げる。
「貴方様のおかげで命を助けて頂きました。本当にありがとうございます」
「……こちらこそ、あなたのご助力に感謝する。……ご令嬢、もしかして、怪我を?」
剣士はリリシアのドレスを見ている。肩のところが少し裂けていたのだ。
「あ、いえ、かすっただけですから」
彼女は慌てて肩を庇った。肌を見せるなどとんでもないことだし、怪我をしたなどと家に知られれば養母になにを言われるかわからない。
「かすった?……まさか、あれに触れられたのか?」
「は、はい、でも痛くありませんから……気にかけて頂いてありがとうございます」
剣士の声が焦っているのに気づき、リリシアは安心させるようににっこりと笑った。
フードの陰で剣士の瞳が大きく見開かれる。
そこへ御者が物陰から走り出てきた。
「リリシア様。早く、とっととこんな所から逃げねば…!」
彼は必死にリリシアと少年たちを馬車へと急き立てた。
「どなたか知りませんが、ありがとうございます」
剣士も頷き立ち上がった。
「……早く行きなさい。あれはまだ生きている」
低い声でそういうと、血まみれの剣を再び持ち直し雷鳴轟く森へと消えていった。
「今の剣士様……誰だったんだろう、シノ」
「わかんない。でも、すごかったね……」
少年たちが憧れの表情で見守る隣で、リリシアは肩に妙な違和感を感じながら、しばらく呆然としていた。