聖騎士さまに、愛のない婚姻を捧げられています!
リリシアは深く目を閉じる。宴の後、ひどく苦しくなったこと、肩の痛みやそしてセヴィリスの落ち着いた手当てのことが蘇る。彼女はそっと肩へ手をやった。
昨日のことが少しずつはっきりとしてくる。自分はセヴィリス・デインハルトに嫁ぎ、このグリンデル領の館に迎えられた。
だが、夫となったセヴィリス卿はリリシアと夫婦生活を送るつもりはないといった。なぜなら彼女を迎えたのは、聖騎士として『魔印』という恐ろしい魔物の呪いから守るためだから。
「……守るために、婚姻を」
リリシアはぽそりと呟く。
貴族の婚姻は、子種のため、財産のため、爵位のため。だがセヴィリスはそのどれも違う。もちろん、愛ですらない。
リリシアの頭に、『妖精あたま』という言葉がぽわりと浮かぶ。
(これから、どうなるのかしら……)
相変わらず外では小鳥が呑気に朝の挨拶を交わしている。彼女は途方に暮れて、まだ見慣れぬ天井のシャンデリアを見上げた。
「奥様、リリシア様。お目覚めですか?」
扉の向こうで控えめな声が聞こえた。リリシアは慌てて寝台を降り、扉を開ける。そこには昨日彼女の世話をしてくれた女性達のうちの一人が立っていた。水甕とリネンを手にしている。