聖騎士さまに、愛のない婚姻を捧げられています!
彼女は驚いたようにリリシアを見ていた。
「お、おはようございます。奥様」
「お、おはようございます……」
互いに戸惑って挨拶をする。女性はまだ目をぱちくりとさせていた。
「あの、奥様、お支度のお水をお持ちしました……」
「まぁ、わざわざありがとうございます。重いでしょう、どうぞこちらへ」
女性は驚いた表情のまま、備え付けられた優雅な装飾の甕受けに水甕を置く。リリシアは彼女に再び礼を言った。
「ありがとうございます。あの、ごめんなさい。朝は忙しいのに」
「と、とんでもない。これが私の仕事ですから。あの、奥様……」
彼女は戸惑いながらリリシアを見ている。
「なんでしょう」
「扉をご自分で開ける必要はございません。朝のお支度は私どもの仕事ですから、その、貴女様はお返事するだけでいいのですよ」
リリシアははっと赤くなった。
「ご、ごめんなさい……。その、いつも自分でやっていたから」
ベルリーニ家では彼女は自分のことはほぼ自分でやっていた。使用人たちは意地悪なわけではなかった。
だが、リリシアの世話を焼いているところを夫人たちに見つかると彼らがいびられるのだ。そのせいで使用人たちもリリシアを敬遠していた。
女性はさらに驚いた顔をしたが、なにも言わず微笑むと深く腰を落とし頭を下げた。
「サラと申します。奥様の身の回りをお世話いたします。この館では貴女様が主人です。なんでもお言い付けくださいませ」
「あ……り、リリシアです。よろしくお願いします」