聖騎士さまに、愛のない婚姻を捧げられています!

(ほら、お皿に集中して……。とっても美味しいし、盛りつけも素敵だわ)

 彼女は俯き自分の食事に専念しようとすると、セヴィリスの声が聞こえた。

「館の食事はどう?美味しい?」

 彼は穏やかな表情で尋ねる。

「はっはい!とても、珍しい食材ばかりで」
「よかった。ほら、彼らも君の感想を待っているよ」
「え?」
 セヴィリスは暖炉の側に並ぶ使用人に目を向けた。
「みんな、奥方のお褒めの言葉を待っているんだ」

 そのおちゃめな言い方に彼女は驚いて、思わず顔を綻ばせた。食卓で笑顔になることなど、もうずっとなかったのに。
「あ、あの、とっても美味しいです。このお肉、口の中でほろほろに溶けて……香草の香りもすごく爽やかで」

 リリシアは思いつく限りの感想を言ってみる。すると、初老の家令と執事は目を輝かせ、頭を深く下げた。

「光栄です。奥方。料理番に必ず伝えます。次はさらに、リリシア様のために腕を振るうことでしょう」
「グリンデルの森はたくさんの木の実があるからね。香辛料も有名なんだよ」

 セヴィリスも誇らしげに料理を見る。そして彼らに「今日も美味いね」と笑いかけた。

 不意に、リリシアは胸がいっぱいになる。
 自分の「美味しい」を喜んでくれる人がいる。そしてすぐそばに「夫」がいる。名ばかりだとしても、仮初だとしても、リリシアは幸せを感じずにはいられなかった。

「本当に、いつも美味しいお食事をありがとうございます」

 リリシアは改めて心からの感謝を伝えた。
 セヴィリスはこほんと咳払いをして、大きなグラスから水を口に含んだ。

「……屋敷の向こうの森は、野生で食べられる実もたくさんある。あなたが良くなったら、森を案内しよう」
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