聖騎士さまに、愛のない婚姻を捧げられています!
穏やかな食事が終わり、夜が更けると就寝の時刻だ。
毎夜、リリシアがサラと寝支度をしていると夫は遠慮がちに扉を叩く。
彼の手には銀のトレイが載せられていて、そこには薬茶と、そして薬壺が準備されている。セヴィリスは魔印の手当てにやって来るのだ。
サラは恭しく辞去し、ここからリリシアの世話は、夫であり聖騎士のデインハルト卿に委ねられる。
彼の冷たい指がリリシアの肩にそっと触れ、透明な軟膏を禍々しい印に塗り込んでゆく。意識してはいけないと思いつつ、緊張してしまう。知らず、彼女は息を止めていた。
「滲みない? 痛くはないかな」
「ええ、ありがとうございます……」
不思議なことに、初夜にあれだけ熱を持って暴れていた魔印はすっかり大人しくなり、ときおりちくちくと疼くぐらいになっている。
「……魔印の手当ては何度もしてきたのだけれど、貴女のはこの数日でとても静かになったね。珍しいことだよ」
彼は不思議そうに呟いた。
「ありがとうございます。本当に、最近は夢もほとんど見ません」
「お茶が効いているんだね。今は時期もいいから。満月近くなるとまた不調が表れて来るはずだ。少しでもおかしかったらすぐに伝えてほしい」
「はい……」
(このお薬って、どんなものなのかしら……)
相変わらず質問することに躊躇ってしまう彼女を察してか、セヴィリスが説明を始めた。
「この塗り薬はね、聖騎士に代々伝わる秘薬なんだ。
魔物につけられた傷にしか効かない。領地の森深くにある泉の聖水で作られているんだよ」
「そ、うなのですね……わ、たしは知らないことばかりです……」
森の聖水に、聖騎士……リリシアの想像もつかない話だ。だが彼女は不意にあることを思い出した。
「あ、で、でもっ」
セヴィリスが形の良い眉を上げ、リリシアを見た。