聖騎士さまに、愛のない婚姻を捧げられています!
「馬車が参りました、ベルリーニ嬢」
侯爵家の侍従がおずおずと声をかける。リリシアは肩掛けを羽織り立ち上がった。
「ありがとうございます。侯爵夫人にはせっかくお招き頂きましたのに申し訳ありませんとお伝えください。皆様には気分が悪くなったと……お願いします」
「あの、良ければ今からでも参加なされば……皆様お待ちでございますし」
侍従は口ごもりながらも気を遣ってそう言葉をかけた。本当は誰も彼女がいなくなったことを残念になど思っていない。リリシアにはそれがよくわかっていた。
「お気遣いありがとう。でも大丈夫、私がいない方が皆様楽しく過ごせると思うわ」
彼女は丁寧に頭を下げると賑やかな茶会を後にして、馬車へと乗り込んだ。湿った髪を拭きながら窓を開けて馬車に揺られるうちに、髪はすっかり乾いてきた。
(いつか、私もお茶会を心から楽しむことができるのかしら……。おしゃべりしたり、カードゲームをしてみたり……)
年頃の令嬢は皆、友人たちと毎日いろんなところに招待されそのようなことに勤しんでいる。そうしていつか家の定めた男性と婚礼をあげるのだ。
だがリリシアは自分にそのような未来があるとは考えにくかった。
「お前のためにわざわざ持参金を持たせて嫁がせるようなことはしたくない」
そう伯爵にも夫人にも言われていたからだ。もうすぐ二十歳を迎えるリリシアはこのことを考えると少しだけ不安になる。だが彼女は気を取り直して御者へ声をかけた。
「あの……少し寄り道をしたいのだけれど、構いませんか?」