聖騎士さまに、愛のない婚姻を捧げられています!
「奥様。侍女のサラは、幼い頃、両親を魔獣に殺されております」
「……え?」
「彼女の住む村が獣の群れに襲われたのです。小さな村はあっという間に炎に包まれたといいます。村人はちりぢりになり、行き場をなくしたサラと数人の者を前デインハルト伯爵が引き取り、グリンデル領へ連れ帰ったのです」
リリシアは言葉を失った。
(そんなことが……?)
サラは今、大きな口で笑い、皆と冗談を言い合っている。
「私の村も小さく辺鄙な場所にありまして、獣の恰好の餌食となりました。妻を失い自暴自棄になっていたところ、セヴィリス様のお祖父様に助けて頂きました」
アンドルは穏やかに続けた。
「私たちは皆、この国の様々な土地からこのグリンデルにやって来ました。そのほとんどが、私やサラと同じような体験をしております。紹介状も確かな身元もなく困り果てていたところを皆、聖騎士団に助けられここを安住の地としているのです。行き場のない者を受け入れてくれたデインハルト家には感謝しかありません。だからこそ、デインハルトの館の主人がなさることに、最大限お応えするのが一生の恩返しだと胸に刻んでおります」
「そ、うだったのね……」
リリシアは膝に置いた拳をぎゅっと握りしめた。皆、どんなに怖い思いをしたのだろう。
「セヴィリス様は先日騎士団の長の座につかれました。お小さい頃から私はあの方の鍛錬する姿を見てきております。必ずや立派な聖騎士になられるでしょう。尊敬する聖騎士様が選んだ奥様ですから、悪い方であるはずがないのです」