聖騎士さまに、愛のない婚姻を捧げられています!
18話 修道院の惨状
馬車の小窓から見える風景が逆戻りしていく。馬車は順調に進んでいた。グリンデルの緑深い山々や草地が遠くなる。青い空の下、街や集落が現れてはまた流れる。やがて、真っ白な建物が見えてきた。思わず身を乗り出す。
「あ、あれは……」
「聖堂だよ。私たちはあそこで婚礼式を挙げたんだ」
厳かな佇まいは瞬く間に通り過ぎていく。
リリシアは馬車の心地よい揺れを感じながら、流れる景色を不思議な気持ちで見ていた。
三ヶ月前はこの景色を楽しむ余裕などほとんどなかった。不安と緊張と、そして戸惑いでいっぱいだったから。
毎夜ひどい悪夢に悩まされていたことも、今は遠いできごとみたいに感じられる。
今、リリシアの前には麗しい青年がいる。長い足を窮屈そうに組んで、穏やかに窓の外を見つめていた。『夫』はあれからずっと、そばにいてくれる。
だが、リリシアが思い描いていた新婚生活とは全く違った。この三月は、聖騎士の砦ともいえる館で、魔印を和らげる日々だった。
それでも。
リリシアは青い空を見上げた。
(それでも私、とても幸せだわ)