毒舌オオカミ秘書は赤ずきんちゃんを口説きたい
 辛辣な言葉にウッと息を飲む。彼は採用担当をしており、人を見る目があると自負していたのを思い出す。気持ちの切り替えも得意で私の事などもう愛していないのが痛いほど伝わる。私をまだ若い、結婚の予定がないとは市場のものさしで言う。

 いや、そもそも愛されていたのか今になると自信がない。

 室内には彼が持ち込んだゲームや洋服などが沢山ある。それらがどれも彼の抜け殻みたいに思え、早口で伝えられる住所を書き留めながら泣きたくなった。別れても尚、彼の言う通りに動いてしまう。
 しかも、こんな場所に住んでいたとは知らなかった。振り返れば自宅へ招かれた試しはなく、会うのは決まって私の部屋だったから。

「じゃあ、よろしく」

 通話は終わる。同時に力が抜けて、乾いた笑いが込み上げた。

『今日の占い第一位はーー乙女座のあなたです!』

 テレビのボリュームを大きく感じるくらい、私の心は空っぽ。

『実は側にいる人が運命の人? 相手を知る事を恐れないで、しっかり目を見て話してみよう。ラッキーアイテムはアクアパッツァです!』

 イタリア語でアクアパッツァは狂った水という意味だ。
 その昔、調理師を目指していた乙女座の女はかぶりを振った。
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