毒舌オオカミ秘書は赤ずきんちゃんを口説きたい


 待ち合わせのホテルに着くと、結人さんは昨日と同じ席に腰掛けていた。
 私を見付け、軽く手を上げる。

「お待たせしてすいません」

「いや時間通りです、早いくらいじゃないかな?」

 私の椅子を引き、エスコートしてくれた。

「結人さんはいつから?」

 おずおず着席しながら尋ねると、彼は背後から囁く。

「そうですねぇ。夢の中でもお待ちしていましたので、あれからずっとですよ」

「ーーっ、なっ!」

「なんちゃって、ふふ。遥さんがいらしてくれて嬉しかったので、つい悪戯してしまいました。すいません」

 頬にかかった甘い言葉に跳ねる私、それをニコニコ眺める結人さん。
 彼も席に戻り、ちっとも悪びれる様子もなくカップを傾けた。一連の所作が流れるように美しい。

「それはそうと今日はオシャレをしてきてくれたのですね? とても素敵です」

「あ、あの、オシャレというか」

「スーツですね。それもビジネス用の」

「流石に昨日みたいなパーカーとジーンズでは来れなくて。失礼のない服装がこれしか思い当たらず……駄目だったでしょうか?」

「スーツはよくお似合いですよ。私が面接官ならば即採用します。しかし、デートにビジネススーツは少々話が違ってくるかと」
< 11 / 49 >

この作品をシェア

pagetop