毒舌オオカミ秘書は赤ずきんちゃんを口説きたい
「確かーー峯岸斗真さんとは同じ会社ですよね? 峯岸さんはヒロインシューズの」

 名刺をもう一度確認。私の方は口頭で青井遥と名乗ってある。

「職場が同じと言えば同じですが、彼は代表取締役で、私は峯岸の秘書をしております」

 なんと葛城さんがテレビで取り上げられる人物の関係者とは……。

「えぇ!」

 驚きで手元からマカロンが転がる。一体、幾ら賠償金を請求されるのだろう、頭の中の電卓では算出しきれず瞬きを忘れた。

「青井さん、いえ遥さんとお呼びしても? せっかく素敵なお名前を存じ上げているのですから」

「え、あ、はい、遥でどうぞ」

「それでは遥さんも結人と呼んで下さい」

 ファーストネームで呼び合うのが常であるのか、提案される。しかし、私と彼は加害者と被害者という関係性でフレンドリーに接するのは違う気がした。

「それはちょっと……」

 曖昧に返答を濁す。すると葛城さんはニッコリ微笑んだ。

「結人と呼んで下さらないと、時計を失った悲しみに飲み込まれてしまいそうです。あぁ、時計の修理費を請求するつもりはありませんよ。その代わり、遥さんと仲良くなりたいのですが?」

 彼が悲しみに飲み込まれるか、どうかは別として。私が葛城さんのペースに飲み込まれてしまいそう。
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