毒舌オオカミ秘書は赤ずきんちゃんを口説きたい
「観光案内であればガイドを雇われた方がいいのでは? ガイド代は私がーー」

 言い掛け語尾を潰す。天下のヒロインシューズの社員がガイド代を節約するはずない。あははと乾いた笑いで誤魔化すと襟足を撫でた。

 それにしても随分切ってしまったな。とにかく髪を切りたい一心でいつもと違う美容室へ飛び込み、ばっさりカット。小学生以来の短い髪に落ち着かず、フードを被りたくなる。

「私はお似合いだと思うのですが、もしかして髪型がお気に召していないのですか?」

「はい、ショートカットって慣れなくて。私がすると少年っぽいというかーーあ、すいません! こんな話どうでもいいですよね! ガイドについては専門の人に頼みましょう? その方が絶対に楽しめますから、ね?」

「私は短い髪は好きですよ。遥さんの場合、くるくる回る表情がよく見え、目が離せなくなりますね。それとガイドの手配は不要です。私は貴女と観光がしたい」

 いけませんか? 首を傾げる結人さん。

「困りましたね……私では荷が重いです」

 即座に案内するプランが思いつかない。こういう人は何をしたら面白がるのか見当もつかず、はっきり言って住む世界というか価値観が違いそうだ。

「ところで明日は平日ですが、お仕事は?」

 丁度いい質問が来た。私は前のめり気味に答える。

「私、今は無職なんです!」

「無職?」
 
 結人さんは『無職』のワードを生まれて初めて聞いた風に繰り返すと見開く。

 よもや彼の辞書に『無職』など載っていないし、恋人が社内で別の彼女を作ったことで居たたまれず退職なんて背景も知る由もない。

「修理代やガイド代はどうにかお支払いしますのでご心配なく。無職の私と観光なんてしたら結人さんの評判を悪くしないかと、ご迷惑になると思うんです!」
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