毒舌オオカミ秘書は赤ずきんちゃんを口説きたい
 我ながら伝えていて虚しい。結人さんへの謝罪に集中したいのに、彼にぶつかった衝撃と恋を失った喪失が意識を散らす。

「す、すいません、何を言ってるんですかね、私」

 情けなくて涙が出そう。

「何故、遥さんが謝るんです? 我儘を言っているのは私ですよ? 私は貴女が失恋したと分かっていてお誘いしているのですから」

「は、はい?」

「自分好みの女性にお相手が居ないと分かったら口説く、至極当然の事でしょう? おかしいですか?」

 イタリアの男性が女性に対して積極的なイメージはある。情熱的というか。しかしながら粗相をされた相手まで対象になろうとは。そのうえ私は一般人、いや無職のアラサー。

「ふふ、涙が引っ込みましたね。遥さんの美しい涙は私の為だけに流して欲しいです。他の男を想って泣かれたくない」

 とか言ってハンカチを差し出す。実にスマートな仕草で嫌味がない。

「イタリアの方はこういう感じなんですか?」

「さぁ? 峯岸もこと恋愛に関しては奥手でしたので。日本男性よりは愛情を示すかもしれませんね。まぁ、私の両親は日本人ですし祖母の血が強く出たのでしょう。
それでデートの申し出は受けてくれますか? 赤ずきんちゃん」

 結人さんはパーカーへ手を伸ばし、ふぁさりとフードを被せてきた。そのついでに目尻を拭われる。

「もし断られてしまえば私の心臓はこの時計と同じ、止まってしまうやもしれません」

「……また、そんな事を」

 フードを被せたのは泣き顔を周囲に見られない配慮かもしれない。

「ふふ、明日、午前十時にこちらでまた会いましょう?」

 その後、赤ずきんはお土産にマカロンを包んで貰うと帰路へ着いたのだった。
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