二人の歩幅が揃うまで
お客さんと店員さん
 社会人1年目の4月中旬。家までの帰り道に見かけて気になっていた『スクイズィート』という洋食屋に自然と足が向いた。実は通るたびにいい香りが漂っていて、気になっていた。金曜日である今日なら行ってもいいかな、なんて気持ちになってドアを開けた。

「いらっしゃいませ。」

 出てきたのは、柔らかい焦げ茶色の髪が揺れる男の子だった。男の子、という言い方で正しいのかはわからないが、明らかに年下の、丸い目が可愛らしい男の子だ。
 
「あの、カウンターの席って空いていますか?」
「あ、はい。こちらへどうぞ。」

 案内されたのは、カウンターの一番隅の席だった。他にもカウンターに客はいたが、適度に距離をとってくれたようだ。

「メニューはこちらです。お決まりになりましたら、お声掛けください。」
「ありがとうございます。」

 優しい声と、優しい空間。そして美味しい匂い。やっぱりこの店は当たりだ。そう思うと、思わず頬が緩む。昼を食べたのは12時過ぎだ。時計を見やるともう8時を過ぎていた。お腹が空くのは当然だ。
 メニューをめくると、目移りしてしまってなかなか決められない。パスタもピザもおつまみも、どれも美味しそうだ。

(…サングリアとか飲みたい気もするけど、飲んだら確実に寝る…から今日はナシ!)

 ふと目に留まったのは、『今日のおすすめパスタセット』だった。サラダとスープとドリンクもつくし、何が出てくるかわからないワクワクも楽しめそうだ。お腹は空いているが、量が多すぎたら食べきれない。量がどの程度なのかは聞いたほうが良さそうだ。綾乃がきょろきょろしていると、さっき案内してくれた店員と目が合った。
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