二人の歩幅が揃うまで
「何事も、慣れるのに時間がかかります。湯本さんは湯本さんのペースで。まずはホットカフェラテで一息ついてください。」

 コト、と小さな音と共に出された、紺色のマグカップ。ふわりとほのかに甘い香りが鼻をくすぐった。

「いただきます。」

 火傷が怖いので、熱いものの一口目は大して飲めない。小さく喉を鳴らした。

「ん~…美味しい!」
「お口に合ってなによりです。はい、今日のミニサラダです。」

* * *

 お店が混んできたので、長居しすぎるのもよくないと思い綾乃は立ち上がった。

「ごちそうさまでした。今日もとっても美味しかったです。」
「こちらこそ、試食にまで付き合ってくださってありがとうございました。」
「あれは私としてはお得って感じでした。」
「また、お待ちしています。」

 小さく頭を下げてから会計に向かうと、健人が立っていた。

「今日はありがとうございました。試食もお口に合ってよかったです。」
「すごく美味しかったです!また来ますね。」
「はい。お待ちしています。」

 会計を済ませて、財布をしまう。そしてふと、聞こうと思っていたことを聞き忘れていたことを思い出す。

「あの、お名前なんですけど。」
「はい。」
「咲州さんに咲州くんだと紛らわしいかなって。健人さん?健人くん?どっちかがいいのかなぁなんて思ったんですけど、馴れ馴れしすぎますね。今言ってみてわかりました。」
「あ、いや…馴れ馴れしくないです。綾乃さんの好きな呼び方で大丈夫です。」
「!?」

 自然に呼ばれた、久しぶりの名前呼びに年甲斐もなくどきっとする。
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