二人の歩幅が揃うまで
お弁当と涙
* * *

「綾乃さんって。」
「うん。」

 今日は綾乃の家で映画を観ることにしていた。新しい年度となり、やや仕事がばたついている綾乃の様子を見て、一緒にいたいけれど綾乃に負担をかけないためにはどうしたらいいかと健人が訊いたことによって成立した初の家デートだった。スーパーでお菓子と飲み物を買って帰宅し、それを広げているときに健人が唐突に綾乃に尋ねた。

「お昼ご飯はいつも外食ですか?」
「うーん…作るときと、間に合わないときと半々。」
「お弁当、作ってるんですか?」
「やる気があるときは冷凍食品詰めたり、昨日のおかずを詰めたりするけど…疲れてるなぁとか面倒だなって思ったらコンビニ行ったり、近くの定食屋さんで食べたりとかもしてる。毎日外食できるほどの経済力はないかなぁ。」
「あの、迷惑だったら断ってもらっていいんですけど。」
「うん、どうしたの?」

 健人にしっかり目を合わせて綾乃が問いかける。

「綾乃さんのお弁当を、作りたいなって思ってて…。」
「え?」
「あっ、この前瑠生さんがうちに泊まってくれた時に…。」
「その節は本当にごめんね。」
「あっ、いえ!本当に楽しかったので、大丈夫です!」
「…それならいいんだけど…。」

 瑠生が帰ったあともすぐに謝られたが、健人にとっては良い出会いだった。あれからしばらく経った今でも時々、瑠生の方から連絡をくれる。自分からなかなか連絡できないでいる健人にとってはありがたい存在だ。例のハウツー本も2冊送られてきて、内容もそうだが2冊も持っていることに驚きもした。ハウツー本と一緒にコンドームも入っていた。その箱には『健人に買う勇気が出なかった場合のために入れておいたぜ!活用してくれよな!』とメモが張り付けてあった。実物を見るのは初めてで、1つ試しに開けてみたがなんとも言えない代物で最初は言葉を失った。今まで知らなかったことが一つ埋められていくような、それでいてどこか不安なような気持ちになっていた。ただ、健人が少しずつ勉強を始めている一方で、綾乃の方は年度末、年度初めということもあり忙しさは増し、なかなか会えずにいた。そのため特に距離が縮むようなこともなかった。そこで、無理なく会えて綾乃の役に立つようなことと思って考え抜いたのが弁当だった。
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