二人の歩幅が揃うまで
* * *

「そういえば、湯本さん、今日めっちゃ旨そうな弁当食べてなかった?」
「え?」

 新入社員の親睦会も兼ねた飲み会が開催された金曜日。綾乃の斜め向かいに座っていた同期である土田が話しかけてきた。

「なんかスープとかもあったし。前からそんなだったっけ?」

 馴れ馴れしくて綾乃は苦手意識が若干ある男だが、仕事ができて妙に鋭い。そこがまた少し苦手なところでもあった。

「…前からそうではないです。」
「料理特訓中?」
「…ではないですね。」
「ってことは…誰かに作ってもらった?」

 綾乃を見つめる目が怪しく揺らいだ。そういう目が綾乃は前から得意ではない。

「もしかして、彼氏?」
「えっ、湯本ちゃん、彼氏いたの?」
「なになに!?話混ぜて~!」

 綾乃と土田だけだったテーブルに人が増す。元々話す気がなかったが、囲まれてしまってはすぐに逃げられない。
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