二人の歩幅が揃うまで
「あ、ごめんね。」

 電話が来たらしい先輩がその場を後にする。もう一人の先輩もお手洗いに向かう。最悪の現場の出来上がりだった。

「湯本さんの彼氏って社会人?」
「…話さなきゃだめですか?」
「なんで?話したくないの?」
「俺、湯本さんの話聞きたいっす!」

 金森は特に悪意なく真っすぐな目を向けてくれているからこそ、居心地は悪かった。土田の目はずっと綾乃を捉えたままだ。

「…社会人じゃないです。お弁当は彼の善意でやってくれていることです。」

 あくまで淡々と、聞かれたことに端的に答えた。

「社会人じゃないってことは大学生?」
「そうですね。」
「大学生なのに弁当も作れるってすごくないっすか?俺、自炊とか一切できないっす。」
「…少しはできた方がいいかもね。」
「大学生ってことはさ、結構大変じゃない?」
「…何がですか?」
「湯本さん、下ネタ平気な人?」

 何を言いたいのか察してしまった自分が憎い。そして一般論に健人を当てはめようとしていることも嫌だった。
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