二人の歩幅が揃うまで
祝いたい特別な日
* * *

 あっという間に春が終わり、少しずつ先輩の指導のもとで仕事と呼べそうなものをやることが増えてきた。結局、4月、5月は週1ペースで通う程度には店に行っていたが、6月は季節の変わり目で第二週の土曜日に発熱してしまった。熱は土日で下がってくれたが、微妙な頭痛とだるさは一週間残ってしまい、第三週の土曜日も寝ていたほうが楽だった。日曜日はようやくそれなりに動けるようになったので、午前中から掃除や買い物を済ませ、気が付いたら夕方になっていた。

「…食べに行こうかな。」

 疲れていて、一食作る気にはなれなかった。サコッシュにスマホと財布を突っ込んで、サンダルを履いて外に出た。まだ6月だというのにもう暑い。湿度が高いからなのか、空気がべたついてくるように感じる。歩き慣れた道の景色も随分変わったように思う。柔らかい色の花が多かったはずの春はいつの間にか通り過ぎて、緑が増えて青々としている。

「もう6月も終わりかけかぁ。」

 1年もあっという間だ。3ヶ月前は大学生で、ここ3ヶ月は社会人で、過去一番半年が過ぎるのが早かった。大人になるということは時が過ぎるスピードが上がっていくということなのだろうか。
 久しぶりに店の戸を開けると、そこには健人がいた。夕方だったこともあって、まだそこまで混んではいないようだ。

「あっ!綾乃さん。いらっしゃいませ。」

 ふわっと柔らかく微笑む姿につられて、綾乃も笑顔になる。

「…体調、悪いですか?」
「え?」
「あ、いえ。あの、顔色が悪く見えたので…。」
「…わかりやすく顔色悪いってことは、栄養が足りてなかったかな…。」

 確かにロクなものは食べていなかった。だからこそ今日、栄養をつけにきた。

「ってすみません。お席、ご案内します。」

 いつものカウンター席が空いている。綾乃はいつも通りにそっと腰掛けた。
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