二人の歩幅が揃うまで
* * *

 寝ていたら悪いと思い、チャイムは鳴らさず静かに部屋に入る。

「おじゃましまーす…。」

 入ってすぐのところにドアが一つある。電気をつけてそのまままっすぐ進むとリビングだ。リビングの奥にはまたドアがあり、そこにも部屋が一つあるようだ。ドアにプレートがあるわけでもなく、どちらが健人の部屋なのか、現状ではわからない。

「…オーナーさんの部屋開けちゃったらまずいよね…。コンコンってして、…起こす?」

 健人の様子を確認するのがまずは先だと思い、綾乃は手を洗って、手前の部屋からノックを試みることにした。コンコンとノックをし、少しだけドアを開けて声だけ出す。

「…綾乃です。健人くん、起きてる?」
「…あやの…あ、綾乃ちゃん!?」

 手前の部屋で当たりだったようだ。健人が電気をつけ、ベッドの上から起き上がった。確かに顔色はやや悪く、目の下にくまがある。

「お邪魔します。あ、立たなくて大丈夫!座って。っていうか寝て。」
「いやでもなんで…。」

 綾乃は健人の方に近付いて、立ち上がった健人をベッドに再び座らせた。そして綾乃もその隣にそっと腰を下ろした。

「体調が悪いって聞いて、今日こそは役に立つぞーって意気込みで来たの。…やっぱり来てよかった。…あんまり眠れてない?」

 健人は静かに頷いた。

「…熱があるとか、そういう体調不良じゃなくて…なので。」
「うん。」

 健人が静かに綾乃を抱きしめた。すがるように回った腕が切なくて、綾乃はそっと目を閉じた。

「風邪をうつしちゃうとかはないので、ちょっと少しだけこのままでもいいですか?」
「汗臭くない、私。大丈夫?」
「綾乃ちゃん、いつも甘くていい匂い。…好き。」

 綾乃の首筋に健人の髪があたって少しくすぐったい。

「ふふ、ちょっとくすぐったい。」
「くすぐったい?」

 綾乃を腕から解放して目を合わせると、綾乃は小さく笑っていた。

「健人くんの髪が当たって、ちょっとくすぐったかったの。いつもはあんまり健人くんの頭が私の肩に乗ることってないでしょ?だからちょっと、慣れてなくてくすぐったかった。あ、でもごめん。もっとする?いいよ?今日はね、全力で健人くんのことを甘やかしに来たので!」
「甘やかし?」

 綾乃は力強く頷いた。

「そう!いつもは私が甘えてばかりなので、健人くんのピンチに駆けつけてたくさん甘やかすっていう作戦です。」
「綾乃ちゃんがいっぱい甘やかしてくれるの?」
「うん。何する?ご飯食べる?健人くんのしたいことしよう?」
「…健人。」
「ん?」
「健人って、あのときみたいに呼んでくれないの?」
「うっ…あ、そ、そうだよね、健人くんって呼ぶのが長かったのでなかなか抜けなくて。」
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