二人の歩幅が揃うまで
「ごちそうさまでした。」
「良い食べっぷりでした。」

 久しぶりにこんなにしっかり食べた。お腹もいっぱいで、足先や指先までポカポカしている。

「こんなに食べたの、2週間ぶりって感じです。お腹も心も満腹です。」
「今日はもう少しゆっくりしていってくださいね。」
「え、でも食べ終わりましたし…。」
「病み上がりなんでしょう?食べた後にすぐ動き出すのは危ないですよ。」
「あ、じゃあ追加オーダー、いいですか?」
「もちろんですよ。」
「この、おすすめの紅茶が気になるので、これをホットでお願いします。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」

 タダで長居するのは気が引けた。ただでさえいつもよくしてもらっている人たちである。そんなことを考えて片肘をついていたときだった。

「お済みのお皿、下げても構いませんか?」
「あっ、はい!お願いします。」

 健人がすっと皿を下げていく。

「あっ!そうだポトフ。ポトフ、美味しかったです。」
「え?なんで僕が作ったって…。オーナーですね。」
「教えてもらっちゃいました。」

 びっくりして目を見開いたかと思えば、オーナーを見て合点がいったという顔をする。視線が綾乃に戻ると、小さく息を吐いて言葉を続けた。

「すごく美味しかったので、美味しかったって感想をお伝えできて良かったです。毎日食べたい美味しさでした。」
「っ…お、お口に合ってよかったです。」

 ぺこりと頭を下げて、カウンターの奥へと消えていった。

「…あの、だ、大丈夫でしたか?なんか私、まずいこと言っちゃいました?…変なこと言っちゃいました?」
「いやいや。ただ照れただけでしょう。褒められ慣れてないというか…褒められたり、認められたり…そういう経験が少し足りなくなってしまってね。」

 そう言うオーナーの表情は綾乃にはどうにもうまく読み解けなくて、それ以上言葉を続けられなかった。
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