二人の歩幅が揃うまで
 おすすめの紅茶をゆっくり飲んで、一息つく。

「今日も美味しい食事をありがとうございました。来週までには全快します。」
「季節の変わり目ですから、くれぐれも無理なさらないようにしてください。」
「気にかけていただいて、ありがとうございます。」

 綾乃は小さく頭を下げる。

「あの、湯本さん。」
「はい。」
「お客様にこんなことをお願いするのもなとは思うのですが、もし湯本さんがお時間あればでいいんですけど。」
「はい?」
「来月17日にご来店いただくことは可能ですかね?」
「…ちょっと即答できないんですけど、何かお店であるんですか?」
「お店で何かあるわけではなくて、その日は健人の誕生日なんです。」
「大事な日じゃないですか!」
「お仕事もあるでしょうし、無理でしたら無理で大丈夫です。少し気に留めておいてもらえると嬉しいなというだけの話なので。」
「あの、お客さんとして来るだけで大丈夫ですか?オーナーさんと一緒に何かサプライズとか仕掛けますか?」

 妙にノリノリな綾乃に、吹き出しかけたのはオーナーだった。

「いえいえ、そこまでは考えてませんでした。ただ、祝う人が一人でも多いほうがいいかなと思っているだけです。」
「…私が1カウント分、十分に役割を果たせるかはわかりませんが、日々の美味しいもののお礼になれるようにはしますね。」
「湯本さんが来てくださるだけで充分ですよ。」

 7月17日。スマートフォンで曜日を確認すると金曜日だった。これならば、間違いなく来れるだろう。
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