二人の歩幅が揃うまで
* * *

「綾乃ちゃん。」
「なに?」
「久しぶりに、手でも繋がない?」
「いいよ。」

 本当に久しぶりに外で手を繋いだ。指が絡んでふと健人の顔を見上げると、にっこりと微笑んでいる。

「…本当にさぁ、健人は。」
「ん?」
「ずーっと変わんないね、顔がゆる~っとするの。」
「だって嬉しいんだもん。ちゃんと子供たちの前ではもうちょっとびしっとしてるでしょ?」
「まぁここまでふにゃっとはしてないけどさ。」
「…でももしかしたら、みんなが生まれたときとか、初めて立ったときとか、喋ったときとか…そういうときもびしっとはできてなかったかも。」
「可愛かったもんねぇ、小さい頃。暁人は手がかからなくて本当にずーっといい子だった!」
「身長とか体重とかもずっと標準の範囲だったし、大きい怪我も病気もなかったしね。」
「ね。それに比べて日菜乃はとにかく手がかかった~!」

 子供たちが全員、部活やら遊びに行くやらでいなくなった休日に、こうやって昔のことを話すのが二人とも好きだ。過去のことが語れるくらいには自分たちも年をとったし、子供たちも成長したということなのだろう。

「病気が多かったし、勉強はしないし、気は強いから口喧嘩してもめてくるし…。まぁ間違ったことは言ってなかったけど。」
「正義感が強くてね。曲がったこと嫌いだもんね、日菜乃は。」
「筋金入りのパパっ子で甘えんぼに育ったしね?」
「…別にパパの方が好きみたいなことじゃないと思うんだけど…。綾乃ちゃんのこともちゃんと好きでしょ。」
「なーんか私の方にばっかり口答えしてくるけどね。」
「綾乃ちゃんの方が言いやすいんだと思うよ。ちゃんとアドバイスというか、聞いたうえでの意見もくれるから。」
「だといいけど。暁人がいなくなって博人と日菜乃だけって…毎日喧嘩が起きそうじゃない?」
「博人もあえて刺しにいってるからなぁ。」
「賢さを別のところに使えばいいのにそれをしないからなぁ。」
「本読んでるときだけは日菜乃に突っかかっていかないけどね。」
「ほんっとにすっごい読書してるわよね、あの子。私も本好きだけど…。家族一読んでる。」
「ね。3人ともちゃんとすごいな、頑張ってるなってところがあってさすがうちの子!っていつも思ってるよ。」

 健人の親バカ発言に綾乃は笑った。絡んだ指先にきゅっと力が込められて、綾乃は再び健人を見つめた。
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